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「よせがき」後藤靖香

芋洗い、栗ごはん、よせがき、ダイゲンキデスといったタイトルが示すとおり、後藤靖香が描くのは戦時中の出来事、しかも、戦争で餓死した大伯父をヒーロー化し、その物語を綴ったマンガ風の巨大な墨絵(300cmX500cmのink on canvas)です。

「オジさんは私が作ったヒーローで、生きることを教えてくれた。生まれた時代、環境、戦争。それは、私たちとは違うようで似ている。不利でも、どうしようもなくても、そこで生きていかなければならない。」そう語る後藤の作品は、あの悲惨な戦争と忌まわしいナショナリズムを、不連続性こそが日本近代美術の特異点とみなし、忘却の彼方へと押し込めていた我々の眼を釘づけにしてしまう、ただならぬ気配を放っています。

社会学者大澤真幸は、国民国家が、近代という時制の中で普遍性と特殊性が交錯したところから立ち上がってきたものだと分析したうえで、それらを邁進させる資本主義の本質にある、絶対的な空疎を埋めるものとして現れたのが、ナショナリズムであると明示しています。しかも、冷戦後ますます勃興するナショナリズムの本性が、多文化主義にほかならないという、美術関係者が震撼する事実までもあぶりだしています。多文化主義を盲信し、アートをコミュニケーションツールとして多用してきた我々が、9.11以降、自閉的で趣味性という差異しか表現できないでいることこそが、人種なき人種主義なのです。

このような過酷な現実を前にするとき、蔓延している「ゆるさ」は、もはや、時代を映すものと認知することが不能となり、かわって、大画面を「生きていく」という筆致でかけぬける後藤の墨絵こそ、あらためて、このような環境下を意識し見られたとたん、ダイゲンキなのです。

会期
2008年7月8日(火)~8月15日(金) 日・月・祝休
時間
12:00~19:00
入場料
無料
会場
タマダプロジェクトコーポレーション
よせがき

後藤靖香
「寄書」2008年
油彩、アクリルガッシュ、墨、キャンバス、300x500cm

インスタレーションビュー

「イモアライ」「山砲塞がり、車輪」など
インスタレーションビュー